9月3日古い雲の向こうには面影が ひとつ 笑っていて 見えないのだけれども 残っている断片が さらさらと流れていくように 交わっていくのだね 記憶 うすれていくもの それは「思い出」という言葉に溶け合って なくなるもの 白い肌は空色の宙にあって 触り心地を確かめられるものでもなく 青色の清々しさに ちょっとばかり眼差しをにじませて かたわれの陰は 永遠を留めておかずにはいられないのか 見えるはずのない 面影は 心なしか 笑みを携えて 隠れた ため息をつきながら 笑った ため息はふれることもないかな 弟の得意技だった 浮かぶ 坊主頭の 歯もあまり磨かなかった口の臭さは もう感じることもなく かすれていく 淋しささえも もう昔の今となっては よみがえる残憶 うすくなっていく おとうと 時のあいだが拡がりを見せて どこへ消えたのだろうと 錯覚する が 「いた」のは まだ 私の中 涙する あの 虫の息で 「お姉ちゃん」とつぶやく 細るくちびるを ベットは凍てつき 涙する 白い肌の赤みが 冷めていく 「臨終です」 の声が 染みていく 「ただいまあ」 こだまする ランドセルに付けた 鈴の音 肌黒く 靴を蹴り捨てて 「お母さん ただいまあ」 と駆け寄り そして 「これからおじいちゃんち いってくる」 と、ランドセルも放り捨てて もう、走り出していった あの子は知らない 『俗名 本間忠彦 享年 九歳』 と刻まれた位牌があの家にあることを そんな9月3日は 残暑もまぶしい 子供達の声が聞こえる ジャンル別一覧
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